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90年代以降の経済停滞は、日本にどれほどの損失を与えただろうか。
1990年以降の日本の実質GDP成長率は、わずか1%となった。
80年代の4%にくらべて大きく低下しただけでなく、90年代に2〜3%の成長をとげた欧米先進工業国と比較しても、際立って低い成長率となった。
この期間に日本の失業率は5.4%(2002年)にまで上昇し、ヨーロッパ諸国の10%弱にくらべれば低いものの、アメリカには逆転された(2002年にはアメリカの不況により再逆転となった)。
先進工業諸国、特に91年以来の好況を護歌するアメリカと比較して日本のパフォーマンスがよいのは、物価が安定していることだけとなった。
しかし日本は、物価が安定していたというより、デフレ状況にあった。
これでは、物価についてもパフォーマンスがよいとはい長率が80年代前半のトレンドの3%であったなら、2002年の実質GDPは538兆円ではなくて、221兆円大きい660兆円になっていたはずであり、90年代から2003年半ばまでの実質GDPの損失を累計すれば700兆円となる(1995年価格)。
この停滞が、今後さらに10年間(2013年まで)続くとすれば、日本は3000兆円以上、すなわち6年分のGDPを失うことになる。
アメリカが30年代の大恐慌で失ったGDPが3年分といわれているので、日本はその倍以上の富を失うことになる。
まさに日本は「大停滞」というべき状況にあり、しかも、この状況から脱却する兆しはないかのようだ。
経済政策の目的は、人びとの幸福を向上させることである。
当たり前の人びとが、より幸福に生活できるようになることである。
構造改革も不良債権処理も、改革や処理自体が目的ではない。
それらは人びとを幸福にするだろうかと、つねに問わなければならない。
もちろん、人はパンのみにて生きているわけではない。
しかし、経済水準の向上は、経済外のものを含めて、人びとの幸福を増大させる。
経済水準の向上は、所得ではなく余暇の増大にも使うことができる。
経済的余剰は、家族との語らいにも、人生と世界についての思索にも、貧困や圧制と戦う人びとを助けるためにも使うことができる。
また、多くの人びとは、仕事のなかに喜びを見出す。
若者は仕事を通して一人前になり、ところが、大停滞とは、雇用が停滞しているということでもある。
若者に仕事がなく、技能を形成することができなければ、日本の将来は暗いものになる。
若者に仕事がなければ、ただでさえ破綻を免れない年金会計の破綻は、さらに早いものになる。
大停滞を終わらせないかぎり、日本は幸福にはなれない。
すなわち、これまでの大停滞を説明することは、大停滞から脱却する途を見出すということでもある。
偉大な経済学者、Aは、「説明と予測は、方向は逆であるが、操作としては同一である。
ただ、徹底的な分析のうえに立った過去の事実の解釈だけが将来にたいするよい指針となりうる」と述べている。
過去を解明することによって、はじめて未来への指針が得られる。
これまでに実質GDPを700兆円も失ったことを解明することによってはじめて、これから失うであろう2300兆円をとりもどすことが可能になる。
大きなものであれ小さなものであれ、人びとから必要とされているという感覚を身につけていく。
この感覚こそが社会を支えるのだ。
この大停滞は、金融政策の誤りによって生じた。
では、金融政策の誤りがいかなる経路を通じて90年代の大停滞をもたらしたのかを分析している。
特に、金融政策は金利を決める政策ではなくて、物価を決める政策であるという観点に立って、金融政策の誤りを示している。
そのうえで、金融政策の誤りをどのように正し、2300兆円をとりもどすかを具体的に提言している。
90年代以降の大停滞については、金融政策の誤りではなく、日本が構造改革に取り組まなかったからだという説もある。
むしろ、現在では、この「構造問題説」こそが主流となっている。
しかし、構造論者が、どのような構造改革を怠ったから日本の実質成長率が91年を境に3%成長から1%成長に低下したのかという問いに答えたことはない。
「構造問題説」とは、雑多で、内容のない、誤った議論の寄せ集めである。
むしろ、デフレから脱却することこそが、真の構造改革である。
私にとって、90年代以降の大停滞が金融政策の誤りによって生じたことはほとんど自明である。
なぜなら、マクロ経済学のすべての教科書が、物価の硬直性や、期待の誤り(期待がつねに正しいはずはないのだから、それはしばしば生じることである)があるときには、金融政策の誤りは大きな景気変動を引き起こす理論的可能性を示し、かつ、現実に起こったことを示しているからである。
そして、この主張は、私が、日本経済と世界経済を観察し、実証分析を行い、かつ、多くの実証分析を精査するなかで、真実であると認めてきたものである。
90年代の大停滞の規模を確定し、「構造問題説」の無内容さを論じている。
大停滞の規模を確定することは重要である。
規模を確定しなければ、大停滞を説明するために、どの程度の大きさのインパクトを与える要因を見出さなければならないかが明確にならないからである。
大停滞に対して、財政政策と金融政策のどちらに問題があったのかを議論し、金融政策の誤りが決定的であったことを示す。
金融政策の誤りが、名目賃金の硬直性という経路を通じて実質GDPを停滞させたことを解明する。
金融政策の誤りとバブルの後始末の不手際が相乗して90年代の日本経済を長期に停滞させたことを示す。
1990年まで欧米先進工業諸国とくらべて、より高い成長を示してきた日本の実質GDP成長率は、90年代以降失速し、先進工業国のなかでも低い成長率の国となった。
なぜこのようなことが起きたのだろうか。
「大停滞」ともいうべき日本経済の停滞の大きさを確定し、それがなぜ起きたのかを説明できるとするいくつかの説を簡単に紹介する。
そうした説のうち、「構造問題説」は無内容であることを示し、見込みのありそうな説について、それをどのように論じていけばよいかを説明する。
90年代、バブル崩壊後の日本の実質GDPの年平均成長率(90〜2002年)は1.3%となった。
80年代の成長率の4.1%とくらべると大きく低下しただけでなく、日本の成長率は欧米先進工業国のなかでも低くなった。
90〜2002年にかけてのアメリカの成長率2.9%、ドイツの1.6%(ドイツの成長率は91年の西ドイツの成長率に東西ドイツ統一後の成長率を接続したもの)、フランスの1.8%、イギリスの2.2%とくらべても低い成長率である。
しかも、ドイツの成長率は、疲弊した旧東ドイツ復興のための経済負担を課されたうえでのものである。
なお、ここで、構造改革に成功したとされるアメリカの成長率が、停滞していたとされる80年代の成長率から加速していないことに注目すべきである。
アメリカは90年代の後半にはたしかに成長率が加速したが、その相当部分はバブルに経済停滞で失った富はすでに700兆円90年代以降の経済停滞は、日本にどれほどの損失を与えただろうか。
80年代前半の実すぎないとわかり、2001年には不況に突入した。
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